台湾有事、日本に行われるハイブリット戦とは
中国は昨年12月末から台湾周辺を取り囲むように大規模な軍事演習を行った。防衛力強化を推進する頼政権への圧力、台湾への大規模な武器売却を許可したトランプ米政権と高市政権へのけん制もあると思料する。
(人民解放軍 中国外務省)
2025年8月に台湾の公共電視台が放映したグレーゾーン攻撃を扱った「零日攻撃」が放映され話題になった。台湾内部の混乱が拡大していき、最終的に人民解放軍が金門島に上陸するというストーリーであり、台湾で初めて台湾有事を扱ったテレビシリーズだった。
グレーゾーンとは、戦争でもなく平和でもない中間領域を指す用語であり、その領域の中で行われる軍事作戦にハイブリット戦がある。
ハイブリッド戦とは、2014年に発生したクリミヤ併合やウクライナ東部紛争においてロシア軍が行った作戦であり「破壊工作、情報操作など多様な非軍事手段や秘密裏に用いられる軍事手段を組み合わせ、外形上、「武力行使」とは明確には認定しがたい方法で侵略を行うこと」と防衛白書では解説している。
台湾有事の事態認定の推移モデルには、①中国による台湾周辺の海上封鎖、これに対応する米艦船・航空機への燃料補給・パイロットの捜索救助(偶発的な事故による墜落などの発生)を行う重要影響事態の認定、②次に中国軍による米艦への攻撃に対応し米艦防護を行う存立危機事態の認定、③自衛隊が直接攻撃を受けて防衛行動を行う武力攻撃事態の認定。以上の三段階がある。これはあくまで米国(米軍)の行動により台湾有事に日本が巻き込まれていくモデルであるが、日本が直接攻撃される可能性(先島諸島を事前占領する必要が生じた場合)も否定できない。
ハイブリット戦を理解しやすくするために、中国軍が日本に対してハイブリッド戦を行った場合を具体的にみてみたい。
20××年○月、沖縄県S島市の警察署には、早朝から異変を知らせる連絡が多数寄せられていた。市内全域の銀行ATMが故障している。パソコンがインターネットに接続できないなどである。午後には、市全域に停電と電話回線の不通が発生した。同じ頃、空港派出所に管制装置異常による航空機の離発着停止の連絡が入った。警察官が無線により本署に連絡を取ろうとしたが雑音が多く交信ができない。
戸惑っている内に、警察用携帯電話に「空港警備の警察官・警備警戒中のパトカーはS島空港北側の管理地域に直ちに集合せよ」との一斉指令メールが入った。三十分ほどで数十人の警察官と車両が集合し、本署からの指示を待つ態勢となった。その時、大音響とともに爆発が発生、多くの警察官が死傷し車両も破壊された。
混乱する空港の滑走路に見慣れぬ航空機が着陸した。機体には会社マークなどなく、民間機であることしか分からない。機体のドアが開き、中から出て来たのは濃緑色の戦闘服に目出し帽、ヘルメットに防弾ベスト・自動小銃などで武装した一団であった。空港職員がリーダーらしき人物に確認を求めたが、彼は流暢な標準語で「我々は琉球独立団だ」と名乗った。武装集団はあらかじめ定められた手順によるものか、少数の組に分かれて管制塔及び海上保安庁・警察施設等を次々に占拠しS島空港を制圧した。
数時間後、S島市は外部との連絡を遮断され国籍不明の武装集団により、その勢力に入った。
この想定の前提は中国と台湾の緊張が高まり、沖縄県では反基地運動が激化、日本からの分離独立を標榜する過激なグループも現れる状況になった。中国が台湾を武力統一するため侵攻準備を開始、これに連動して南西諸島において中国軍による限定作戦が行われたとのストーリーである。
中国人民解放軍は、旧ソビエト軍をモデルとして整備されてきた。現在、逐次近代化され、電子戦についてはロシア軍に準じたレベルであると思ってよいだろう。サイバー戦については十万を越える要員を保持しているといわれている。
ハイブリッド戦が日本で行われたらどのようになるか。架空の想定であるS島市のお話に戻って解説したいと思う。中国人民解放軍は周到な準備の下、作戦を実行に移した。
第一段階は日本本土及び沖縄本島からS島市を分離することである。このため大規模なサイバー攻撃をかけ、同島と外部とのあらゆる通信やデータ送受信を遮断する。これがATMの故障やパソコンがインターネットに接続できないことなどの原因である。S島空港の管制装置のダウンもサイバー攻撃によるものだ。次いで作戦開始前にS島市に潜入した工作員により、沖縄電力S島発電所が攻撃を受け送電不能となり全島停電になる。
第二段階は、S島沖数十キロに遊弋する電子戦装置を積載したタンカーや貨物船からの電子戦攻撃である。これらの電子戦装置により、警察や海上保安庁の使用する無線及び一般の携帯電話に対する障害が発生し通話ができない状態になる。唯一警察用携帯電話のメール機能だけを残し、そこに偽メールを送信し警察官を誘き寄せる。空港北側の管理地域内には、潜入工作員が事前に爆発物を仕掛けており、偽メールで集合した警察官を確認して爆破したのだ。
第三段階は、偽装した民間航空機をS島空港に着陸させ、日本語の堪能な特殊部隊を武装勢力「琉球独立団」と偽り送り込む。彼らが潜入工作員などと協力して、短期間にS島市を占拠しその勢力下に置くのである。
この一連の作戦行動は外見上どこの国の武力行使か確認する事が出来ない。サイバーも電子戦も見えない敵からの攻撃だからだ。時間とともに既成事実が積み上がっていく。最後には中国政府がS島市の独立を保障するとの結末になるだろう。
もちろん実際には、日本政府の対応や陸上自衛隊の初動対処と増援部隊の派遣によりハイブリッド戦の推移や成否も大きく変わることになる。
防衛力整備計画では「多次元統合防衛力」を抜本的に強化すると示されている。内容は「宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事まであらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を構築していく」というものだ。また、従来領域に新たな領域を組み合わせ、その相乗効果により全体としての能力を増幅させる「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」を行うと記されている。しかし現状は新たな領域への取り組みを開始したばかりだ。また、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした「ハイブリッド戦」に対しては、軍事面に限らない複雑な対応が必要になるだろう。
政府は、本年末を目途に安保三文書(安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)の改訂を行うと発表した。ハイブリッド戦に対処するためにさらなる取り組みも具体化されるだろう。その際に忘れてはならない事は、従来の陸・海・空の作戦領域の態勢がしっかり整っているという前提である。ウクライナにおけるロシア軍のハイブリット戦では、重戦力が国境地帯に展開し軍事的圧力をかけ、砲兵部隊が射撃支援した事なども作戦成功の重要な要因である。また、本論考では入れていない、いわゆるゲームチェンジャーとなった陸海空無人機の導入も待ったなしである。
必要な防衛予算の確保も課題だ。我が国を取り巻く情勢は激変し、その緊張感は高まるばかりである。大幅な増額なくして国民の生命・財産を守る防衛力の構築はできない。また西太平洋において米中が厳しく対立する時代に入り、日本は否が応でもその第一線地域となり一層の防衛努力が求められている。
いつ始まったか分からない「見えない相手からの見えない攻撃」、我々は日々の生活において、常に脅威にさらされていることを改めて認識する必要があるのではないだろうか。
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