台湾有事、在留邦人は、住民避難は・・政府の決断
1月24日、中央軍事委員会の張又侠副主席が電撃的に粛清されたと衝撃的なニュースが飛び込んできた。中央軍事委員会では習近平主席に次ぐ副主席であり、軍人としてはナンバー1の地位である。張副主席はライバルの苗華軍事委員・政治工作部主任との権力争いを勝ち抜き、軍を掌中にして絶大なる権限を握った。また習近平とは父親同士が戦友であり、二人は幼馴染みの関係でもある。四期目を狙う習近平には自分に対等にもう言う張が目障りになったのかもしれない。
人民解放軍写真資料
この粛清事案により軍の内部が混乱しているとの見方もあるが。他方中央軍事委員会には張昇民副主席・中央規律委員会副主席と習近平の二人しかいなくなり、実質的には彼の独裁体制となった。人民解放軍は国民を守る軍隊ではなく共産党の軍隊である。習近平の軍における独裁体制は、いわゆる党の軍の私兵化ということであり、台湾の武力統一に異議を唱える者がいなくなったと捉えるべきである。
そして日本の安全保障に取り最大の懸案事項が中国による台湾の武力統一である。習近平はいつ侵攻を決断するのか。米国のシンクタンクや軍関係者などが「最も可能性が高い」と発言しているのは2027年である。それは、習主席が四期目をうかがうとき、人民解放軍の強軍化目標達成時期、そして人民解放軍創設100周年だからである。
国民の生命・財産を守る立場の政府としては、可能性があるされる来年を目標に準備をしなければならない。
台湾と沖縄県の与那国島との海峡幅は約110キロしかなく、日本と台湾の位置関係は極めて近い。東シナ海から太平洋に出るためには、この海峡を含めて日本の南西諸島周辺海域を通過する必要があり、中国の軍事戦略上重要な第1列島線となっている。さらに沖縄県の在日米軍基地は台湾支援の作戦基盤でもある。台湾有事の際、中国は台湾を海上封鎖し周辺海域で海上優勢を確保しようとするだろう。その結果、同海域は中国軍や米軍の作戦海域となる。
台湾有事が日本へ波及する状況を考えると、「日本への直接波及」、「台湾の行動により波及」、「米軍の行動に関連して波及」の3つが基本的に考えられる。
まず「日本への直接波及」であるが、中国が第1列島線に近づく日米艦隊の接近阻止及び、中国艦隊の太平洋への進出航路の安全確保(海上・航空優勢の確保など)を目的として、南西諸島に侵攻(拠点として確保)する場合である。侵攻はハイブリッド戦から行われる可能性があり、この場合には自衛隊は治安出動から武力攻撃事態に発展し、防衛出動を命じられ奪還作戦などを行う。日米安保による米軍の来援は、米国議会の承認が必要であり時間がかかる。そのため当面は自衛隊単独で戦わなければならないだろう。
次に「台湾の行動により波及」する場合である。緒戦において敗退した台湾軍の残存艦艇及び航空機が日本へ避難して来る場合であり、受け入れた段階から「台湾有事」は日本に波及している。この状況では中国側からの人員・装備の返還要求があり、(当然だが)日本が返還しなかった場合には、最悪の場合に避難した装備を破壊するためにミサイル攻撃が行われることが予想される。台湾にとって米国を参戦させるための積極的な方策があるとすれば、それは日本を巻き込み日米安保条約を発動させることである。
最後に最も可能性があるのが「米軍の行動に関連して波及」する場合である。この場合には、当初米艦の行動を支援する形で「重要影響事態」を認定し、海空自衛隊が後方支援活動(捜索救難や補給)を行う。状況が緊迫化し、米艦が攻撃される事態となれば「存立危機事態」に認定し米艦防護を行う。さらに海自艦艇が直接攻撃される事態となれば、武力攻撃事態へと推移していく状況である。「存立危機事態」および、「武力攻撃事態」の認定により防衛出動が下令され、集団的自衛権の行使から個別的自衛権に切り替わり、南西諸島周辺において自衛隊が中国軍と直接戦闘することになる。
「台湾有事」が発生すれば、南西海域は作戦地域となり、日本は好むと好まざるとにかかわらず巻き込まれるということである。
その時、台湾にいる在留邦人を安全に救出できるのか、南西諸島の住民を安全に避難させられるのか。次に台湾有事の際の邦人避難や先島諸島からの全島避難について考えてみたい。
一 台湾からの邦人避難
中台関係が悪化し、中国側の関与もあり台湾において政府に反発する市民団体が、大規模な反政府デモを起こし、過激派が政府施設などに爆発物を仕掛けるなどテロ活動が活発化したと想定する。この状況が日増しに悪化し、台北市内ではデモ隊と警官隊が激しく衝突し、デモ隊側に死傷者が発生した。こうした反政府運動はあっという間に台湾全土に拡大した。日本政府は「台湾の治安が悪化した」と判断し、在留邦人約2万1000人に退避勧告を出した。在留邦人は定期便や政府チャーター機などの民間航空機を最大限使用し空路から、またチャーターした客船を使用して海路からも退避することになる。
さらに情勢が緊迫して、民間機や船舶による海空路が使用できなくなった場合には、外務大臣から防衛大臣に対して残留している邦人の輸送支援要請が出され、邦人輸送を自衛隊が行うことになる。この場合には、台湾政府との調整により自衛隊機の台湾領空進入及び空港の使用許可を取ることになる。また台湾本島西側に自衛隊機が進入できない場合には、台湾本島東側に輸送拠点を設けて、状況により海上に停泊する海上自衛隊艦艇との間でヘリによるピストン輸送を行うことになる。
果たして、日本政府は、このように状況の推移に応じて的確に邦人救出を行えるだろうか。台湾当局の協力が得られ、在留邦人を本島内の定められた地点に安全に陸上輸送できるのか。中国の海上封鎖・飛行禁止宣言が出されても輸送は可能なのか。また防衛作戦準備と邦人輸送の両作戦が、自衛隊の現有勢力で可能なのか。検討しなければならない課題は多い。
二 先島諸島からの全島避難
国民保護法における住民避難は緊急対処事態及び武力攻撃事態等(予測事態を含む)に適用され、自治体が重要な役割を担うことになる。自衛隊は武力攻撃事態等においては、速やかに武力攻撃を排除し、国民への被害を極限化することに全力を傾注しており、災害派遣などとは違いその能力を集中することが出来ない。政府の早期判断により先島諸島からの住民避難が開始され、自衛隊に余力がある場合には、避難の誘導・輸送に当たることが可能となる。
重要影響事態及び存立危機事態においては、国民保護法による住民避難が出来ない。それは同法案策定時に両事態は海上において生起し、陸上部には事態が及ばないと整理されたからである。台湾有事は同法案の前提とは異なり、武力攻撃事態にまで短時間でエスカレーションすることが考えられる。その時、約11万人の先島諸島の住民(一時滞在者を含む)を安全に避難させられるのか。また離島からの海空路を利用しての避難は短時間では行えず、数日間はかかると思われる。加えて現行法制では、全島避難の際に航空機や船舶を優先的に使用する枠組みはない。
石垣島を例にとると人口4万7618人(令和5年)、乗用車保有数が約8000台である。全島避難となり空路及び海路の避難となれば、鉄道の無い同島において市民は乗用車やバスを利用して空港・港に集合することになる。乗用車の使用規制又は集合時間などの統制がなければ、道路は大渋滞となり、駐車場以外の場所も放置車両であふれることになる。避難用バスなどによる市民の輸送なども考えなければならない。また要介護者(介護段階4及び5段階)には救急車や介護要員の派遣など優先避難のための処置が必要である。しかしながら現在、沖縄県は先島諸島からの住民避難の実動訓練を行っていない。避難指示が遅れた場合には、最悪の場合に住民在島の状況で武力攻撃を排除する防衛作戦を行うことになる。この場合には、在島住民の安全確保処置が必要となり、防空壕の建設や既存のトンネル活用による退避施設の開設が自衛隊には求められる。
全島避難を安全・確実に行うためには、空振りを恐れずに早期に開始する必要がある。このため重要影響事態において、あわせて武力攻撃予測事態を認定し全島避難を開始することが方策として考えられる。しかしながら、まだ台湾海峡において戦闘が生起しない段階で我が国が武力攻撃予測事態を認定出来るのか。また武力攻撃予測事態に認定することにより中国を刺激(日本の参戦意思)することになるのではないのか。日本政府には難しい判断を求められることになる。
(さいごに)
中国政府は、台湾問題は内政問題だとの立場であり、この立場を活用し日本政府は台湾からの「邦人避難の安全確保責任は中国政府にある」との外交交渉を行うことが必要である。また政府は、中国政府に対して、中国国内にいる在留邦人約9万人の安全確保及び帰国に対する便宜と保障を要請する必要がある。
日本政府に残された時間はあまりない。有事の際の邦人救出・住民避難は日本政府の最重要課題である。法改正や先島諸島において全島避難の訓練を行われていない現状を改善し、国民の安心安全を担保する施策を早急に進める必要がある。
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