12式地対艦誘導弾能力向上型の配備と反撃能力

12式地対艦誘導弾能力向上型の配備・・駐屯地は攻撃されるのか。反撃能力とは何か・・実効性を高める方策
山下裕貴 2026.01.09
誰でも

12式地対艦誘導弾能力向上型の配備

               12式地対艦誘導弾能力向上型の発射試験(防衛省)

               12式地対艦誘導弾能力向上型の発射試験(防衛省)

 昨年末、政府は12式地対艦誘導弾能力向上型を陸上自衛隊健軍駐屯地(熊本市)に配備すると発表した。このミサイル配備に関しては、一部市民団体が反対運動を展開している。彼らの反対理由は敵基地攻撃用の長距離ミサイル(射程約900キロ)を配備すれば同部隊(駐屯地)が攻撃目標になり、駐屯地近傍の学校や病院に被害が出るとの趣旨である。これは多少なりとも軍事知識があれば攻撃される可能性がないことが分かる。その理由は、12式地対艦誘導弾のような移動式発射装置は防衛作戦準備間(その前から演習で)に駐屯地を離れ、例えば九州山地の奥深くに展開するからである。移動式発射装置の利点は機動性に優れ、一定の場所に留まらず絶えず(居場所を)移動できるということである。結論的にいえば、12式地対艦誘導弾能力向上型が健軍駐屯地に配備されたから(駐屯地が)攻撃されるとの理屈にはならない。

 これに加えて駐屯地があるから攻撃されるとの趣旨の反対論(そもそも論)もあるが、ウクライナ戦争を見て分かるように、戦争当事国の前線以外の縦深地域の攻撃目標は海空軍基地(作戦機・艦艇などの配備されている作戦基盤)に加えて、通信施設・電力施設・エネルギー施設・交通中枢などの経済インフラが主である。陸軍の方面管区司令部(健軍駐屯地は西部方面総監部が所在)が攻撃された事例はない。なぜなら司令部は堅固な地下施設等に分散配置されており、攻撃による所望の成果(司令官の殺害や指揮幕僚活動の妨害)が得られないからである。つまり、後方にある軍司令部攻撃用に、高価かつ数に限りのある長距離ミサイルを使用するのは費用対効果から見合わないということである。

仮に海空基地のように健軍駐屯地が攻撃される事態が生起した場合、熊本市内のインフラ施設も同時に攻撃されている。自衛隊施設だけが攻撃されるとの前提は、戦争のリアル感がないように思う。ジュネーブ条約で民間施設は攻撃されないとの反論があるが、ウクライナ戦争ではウクライナ軍も戦争遂行(国民の厭戦気分の高揚を含む)の基盤であるとの理由からロシアのインフラ施設を攻撃している。

敵基地反撃能力

 次に敵基地反撃能力について考えてみたい。2022年12月に策定された国家安全保障戦略において「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」と危機感を強調し、その上で、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」とし、ロシアは「安全保障上の強い懸念」と位置づけた。

こうした安全保障環境に対応するために政府は防衛力を抜本的に強化していくと表明。「我が国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、反撃能力である」とした。「反撃能力」は「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加える能力」などと定義している。

発射された弾道ミサイルが我が国に落下して被害が発生した場合に、敵空軍基地やその他の施設に対して反撃し対価を支払わせる。実際に反撃するか否かは、当時の状況をみて高度な政治判断を行うことになるが、この能力を保有することにより弾道ミサイル攻撃を思いとどまらせることが可能になる。

敵のミサイル基地(固定式)を発射前に攻撃することは可能か

まず法的側面から見ると、弾道ミサイル防衛においては「弾道ミサイル等に対する破壊措置の実施に関する命令(以下、破壊措置命令)」が期間を定めて常時発令状態に置かれる。  

これは自衛隊法82条の3に破壊措置命令は内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が自衛隊に下す命令であるが、弾道ミサイルは発射されて我が国に到達するまでの時間が短く、承認を得るいとまがない場合に予め発令出来ると規定されているからである。ただし破壊措置命令は「弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため」とも規定されている。このため早期警戒衛星の情報を得た後、イージス艦等のレーダーで弾道計算を行い、我が国に落下すると判断した場合にのみ迎撃することにしている。あくまでも我が国に弾道ミサイルが落下すると判断された場合である。発射される前に敵の基地を攻撃するという考えがあるが、何を根拠に弾道ミサイルが我が国に発射されると判断し、また常時発令状態に出来るのか。そして憲法上、先制攻撃は不可能ではないのか。大きな疑問が残るところである。

次に軍事技術面から見ると、弾道ミサイル発射装置を攻撃し破壊するためには、精度の高い目標情報(発射台の位置)の入手が必要不可欠である。

現代では弾道ミサイルは固定式に限らず、地対艦誘導弾のように車両搭載型、また鉄道による移動式発射台や潜水艦から発射されるものもあり、固定式以外の発見は情報収集能力の高い米軍すら極めて困難な状況になっている。現在の日本の弾道ミサイル防衛においては、北朝鮮が発射した弾道ミサイルの発射情報を米国の早期警戒衛星から入手している。加えて日本は米空軍の保有する高高度偵察機(U―2)や弾道ミサイル電子情報収集機(RC―135S)などの情報収集アセットを保有しておらず事実上、弾道ミサイル発射装置を発見する能力を保有していない。敵の弾道ミサイルに関する正確な目標情報を入手する能力がなければ事前に攻撃することなど不可能である。

移動式発射装置や極超音速ミサイルに対抗

移動式発射装置を偵察衛星等で存在を確認し、攻撃のためにミサイルを発射したとしても着弾前に移動されてしまえば攻撃の成果は上げられない。加えて極超音速兵器の開発により、我が国を攻撃する弾道ミサイル等の速度や軌道が変化し、現在の弾道ミサイル防衛システムでは迎撃が困難になりつつあることも事実である。、極超音速ミサイルに対抗できる迎撃手段である防空ミサイルや指向性エネルギー兵器の開発、レールガンの早期導入が必要である。

反撃能力の実効性を高める

反撃能力の実効性を高めるためには、目標情報(空軍基地や軍事施設)を入手するための偵察衛星の増加や高高度偵察機などの保有が必要である。また実際の反撃手段としての地対地ロケット、巡航ミサイルや爆撃能力のある戦闘機等が必要であり、このために開発されたのが12式地対艦誘導弾能力向上型や高速滑空弾などである。

米中新冷戦といわれる昨今の厳しい軍事情勢の中、国民の生命財産を守るための最適な防衛態勢を構築するために反撃能力の実効性を高める努力が必要であり、本年末に改訂される安保三文書に期待したい。

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