防衛産業は日本の防衛力そのもの。
2022年12月に策定された「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」には、『いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤』との項目があり、その重要性について説明し、具体的な施策の方向性を示している。
(令和6年度 防衛白書)
防衛省の説明資料によれば「自国での装備品の開発・生産・調達を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を防衛装備品に取り込むために不可欠な基盤、いわば防衛力そのものと位置づけ、強化は必要不可欠である。新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築、リスク対処、販路拡大等に取り組む」としている。
具体的には次の通り。
(生産基盤の強化)
〇サプライチェーン全体を含む基盤の強化、新規参入促進施策の推進、国自身が製造設備
等を保有する形態の検討
(防衛技術基盤の強化)
〇防衛産業や非防衛産業の技術を早期装備化につなげる取り組みを積極的に推進
〇我が国主導の国際共同開発、民生先端技術を積極活用するための枠組み構築
(防衛装備移転の推進)
〇防衛装備移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直しについて検討
〇官民一体となった防衛装備移転の推進のため、基金を創設し企業支援
過去の防衛大綱などを見ても、ここまで踏み込んで防衛産業について書かれた文書はなく、防衛産業の置かれている現状に政府が危機感を抱いた証左である。防衛企業から見れば、防衛装備品の生産は国内需要のみでマーケットが狭く少量生産、かつ民生品に比較して極端に営業利益が上がらない事業分野であった。これは装備品の高価格を問題視する財務省の徹底したコスト管理(効率化)の方針により利益率が8%程度となっていたからである。この状態が長く続いてきため、また近年の景気の落ち込みもあり、下請け・孫請け企業の撤退が相次ぎ、その結果下請け部品まで元請けが生産する非効率な態勢も多くなっていた。この影響を受け、陸上自衛隊の装甲車を生産していた防衛企業までもが同装備開発から撤退する事態が生起している。
資本家からは事業収益の伸びない部門は閉鎖し、新たな事業に投資するようにとの意見も増えている。それまで国防に協力するとの姿勢で営業利益を度外視し、生産していた経営陣にも苦しい状況になってきていた。いわば日本の防衛産業は、崖っぷちに追い込まれていたのである。
この事態を重く見た政府は、新たな「計画」に基づき防衛産業の強化のため「新たな利益率算定方式の導入による事業の魅力化」として、2023年には利益率を最高15%まで引き上げた。また防衛予算の増加により、装備の調達数が増加し、一時的に利益が向上している防衛企業もあるが、将来を展望すれば不透明感はぬぐえない。
単価の安い輸入装備を増加すべきとの意見もある。しかし部品の生産・保管も相手国企業の都合により決められる。また事故が発生した場合に外国企業や軍がどこまで協力するかも問題になってくる。米国の場合にはFMS(対外有償軍事援助)という制度があり、単価に不透明な教育訓練経費が含まれ、支払い時には高騰する場合もある。また支払いは前払いであり、納期が年単位で遅れた事例も生起している。
安全保障上から見ても、生産国からの部品などの提供が遅れれば、装備の可動率にも影響が出てくるなど、当該国の安全保障上の政策が我が国に大きな影響を及ぼすことになる。
また「国自身が製造設備等を保有する形態の検討」という施策は、例えば防衛産業が装備生産から撤退した場合に、製造ラインを国が保有するか新規に設備投資を行い、これを民間企業に運営させるなどの施策である。我が国には他国のような工廠(軍直属の工場、武器・弾薬等の開発・製造等を行う)がなく、これに代わるものである。新規参入の企業にとり大規模な設備投資をかけなくてすむメリットがある。
防衛産業にとり大きな関心事項は防衛装備移転の推進である。1976年に三木総理が国会において、他の地域への輸出を「慎む」と表現し、後に田中通産大臣が「原則としてだめだ」と答弁した。武器輸出三原則は「共産圏と国連決議により武器禁輸をとられた国及び紛争地域」への輸出を禁止していた政策であったが、それ以来装備の全面的な輸出禁止が原則となった。この結果、国産装備の生産は限定され価格が高価になる原因となっていた。この武器輸出三原則に代わり、2014年に新たに防衛装備移転三原則が策定された。
昨年末、政府・与党は安保三文書の改訂とともに防衛装備移転三原則の運用指針5類型(救難・輸送・警戒・監視・掃海の類型に該当する装備移転は許可)の撤廃の検討に入ることとした。検討にあたっては、防衛生産・技術基盤の強化のために対象装備を拡大するべきである。防衛装備を輸出することにより、装備品の国内調達単価が抑えられて防衛予算面でも寄与できる。
防衛装備の輸出は、いわゆる『装備の安全保障』であり、我が国が装備や部品を供給することにより、輸入国の安全保障政策に間接的に関与し得るという、我が国の外交力の強化にも資するものである。
各国は装備輸出事業を国防省や軍が行うか、韓国の防衛事業庁のように政府機関が中心となり国家として行っている。我が国においても、装備移転事業は政府が中心となりリーダーシップを発揮して行う体制にすべきである。+現在、海外移転の当該国企業等との調整も原則的に企業側の責任であり、それを政府側が厳格に審査する制度となっている。民間企業が装備移転を積極に行うことにより、企業イメージが変化し民需部門へ影響することも考慮する必要がある。
「国家安全保障戦略」には、我が国は国際社会の主要なアクターとして、新たな均衡をインド太平洋地域において実現するとしている。その具体的な手段として、装備の安全保障の具体化を期待したい。
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