トランプ大統領の最高指揮官としての資質と日本への影響
2026年2月28日(現地時間)、米国とイスラエル連合軍はイランへの大規模な空爆を開始した。攻撃目標はイラン国内の核関連施設や軍事施設・政府関連施設である。4月7日にパキスタンで行われた停戦交渉により、現在は一時的な停戦状態にある。
米ニューヨークタイムズが軍事作戦決定の経緯を報じた。それによればイスラエルのネタニヤフ首相が「イランの弾道ミサイルは破壊出来る。ホルムズ海峡の封鎖能力も失われる。政治体制も変換出来る」と持ちかけ、トランプ大統領が同意したという。政権内には慎重論もあり、米軍制服組トップのケイン統合参謀本部議長も弾薬備蓄量や作戦の長期化などを説明し再考を促したが、最終的にトランプ大統領が作戦開始を決定したと伝えている。

(BBCニュース)
最高指揮官の決心はその国の意思決定そのものであり、国家の命運を左右する。ゆえに最高指揮官はスタッフの意見に耳を傾け、冷静に判断し決心しなければならない。
ウォル・ストリート・ジャーナルはトランプ大統領の感情の起伏について伝えている。作戦開始直後は爆撃成果から自信を見せいていたが、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖した辺りから揺らぎが見え始めた。ベッセント財務長官らに経済的な懸念を示しながらも戦争は継続するなど矛盾した話をするなどした。このころからトランプ大統領から送信されるメッセージに政権スタッフが不安を感じ始めた。
トランプ大統領の「イランを石器時代に戻す」発言には与党議員からも批判が出た。4月3日にF―15戦闘機が撃墜され操縦士2人が行方不明になった際に、トランプ大統領は数時間にわたり参謀達に怒鳴り散らしたという。トランプ大統領は救出作戦の会議には参加せず、J・D・バンス副大統領以下で会議を行ったと伝えている。
冷静さを失った指揮官は正しい状況判断が出来ない。その判断の失敗は前線の兵士の死に直結する。
トランプ大統領の政治スタイルは不動産王としてのディール(交渉)だと言われている。相手に強硬な姿勢を見せ、妥協をさせずに自分の条件を押し通す。最初に混乱を生み出した後に強気な姿勢で相手との交渉に入る。これらの手法を外交の基本として関税交渉などを行ってきた。国家の命運を左右する戦争開始の判断もこの手法により行ったのではないだろうか。
歴代のオバマやバイデン大統領はネタニヤフ首相のイランへの攻撃要求には従わなかったことで知られている。冷静に分析し米国の国益と世界経済の推移を判断したものだと思われる。なぜトランプ大統領は今回、作戦開始を判断したのだろうか。ネタニヤフ首相の言う通りにイランが屈服するとの判断だったのか。
ドイツのメルツ首相はイラン戦争に関して「米国には出口戦略がなく。戦争を迅速かつ説得力のある形で終結させる計画が存在していないのは明白だ」とトランプ政権を非難している。この発言にトランプ大統領はすぐさま反応し、ドイツ駐留米軍(3万5000人)を5000人削減すると発表した。
トランプ大統領を軍の最高指揮官としてみた場合にはどうなのか。軍関連の教範には指揮官について以下のようには記述されている。
一、指揮官は軍の全責任を負う。
二、軍を確実に掌握し、明確な企図の下に適時適切な命令を付与し、その行動を律し、任
務にまい進させなければならない。
三、良好な統御を行い軍に感化を与え、部隊・兵士をして上下一体となってその能力を
最高度に発揮させなければならない。
四、指揮官は、その職責を果たすため、継続かつ的確に状況判断を行い、適時適切に決心
しなければならない。
トランプ大統領は失策が続くと閣僚に責任を転嫁することが再三あった。大統領は失敗しても最高指揮官として全責任を負わなければならない。
地上作戦をいとわないと発言し陸軍に中東派遣を命じ、またドイツ駐留米軍を5000人削減すると発表するなど場当たり的と評価されてもおかしくない。明確な企図が見えない中の命令下達である。
トランプ大統領は執政直後からブラウン統合参謀本部議長やフランケッティ海軍作戦部長などの高官を更迭、イラン戦争の最中にもジョージ陸軍参謀総長やフェラン海軍長官を更迭するなどしている。意にそぐわない軍人を無理やり更迭し、また戦争中の高官の人事は兵士の士気や作戦継続に悪影響を及ぼす・・とても組織の統御が適切だとはいえない。
トランプ大統領の状況判断は交渉(ディール)を重視しており、決心伝達はSNSまたは記者のインタビューから始まる。スタッフの意見をくみ上げ、冷静な判断を行っていると期待したいところである。
指揮官としての資質に疑問のあるところだが、現状は米国民が選んだ最高指揮官である。米国は圧倒的な軍事力を持ちイランの戦闘能力を凌駕している軍隊であり、この戦争に物理的に負けることはないだろう。しかし戦争は政治の手段であり、政治目的を達成するために外交交渉を行い、その交渉が失敗した場合に戦争は発生する。イラン戦争は戦争自体が目的となってはいないだろうか。
トランプ大統領は同盟(NATO)を変質させつつある。これまでの同盟は「同盟国が攻撃されれば無条件で米国が防衛する」との契約関係であったが、これからは「米国に従わない国は防衛しない」という取引関係へと変わる。
日本の安全保障にもこの変質は大きな影響を及ぼすことになる。日米同盟は無条件で米国が防衛責任を果たすのではなく、日本には台湾海峡での積極的な役割、コルビー国防次官の発言に分かるように防衛費増額(GDP比3.5%)や防衛力の再構築(攻撃力の強化)などが要求されることになるだろう。
本年12月には安保関連3文書が見直されることになる。この見直し検討作業の中で「新たな日米同盟の形」について議論されることを期待したい。
了
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